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算数・数学

10.  徒然 書店探訪草 (2)

 

今回私に許された時間は、3時間半でした。その時間の中での、探訪記です。

 

2月25日の土曜日です。

東京、神保町の三省堂書店。すぐ西のロッテリアで朝食を食べながら開店時刻を待ち、10時になると同時に入って5階(? 6階だったかも)に直行。児童参考書のところへ行きました。

 

 

 

T. 幼児用参考書 足し算 探訪

 

あるコーナーの書棚にズラーーッと「お受験対策本」が並んでいるのにはビックリしました。2,3冊手にとって見てみましたが、ハァ〜とため息。ある意味、不幸せですね。大切な幼少期にこんなもので小手先技術のために時間をとらなければいけないなんて…。

 

さて、その反対側は、ずらーーっと幼児用の学習帳です。地方の本屋にもあった、公文や学研のもの(コラム09でも書いたもの)があるとなりに、七田式からも同種類のものが出ていました。

これらは、少なくとも足し算に入る前までは、どこのものもよくできていてとてもいいのです。ところが足し算に入ると、私の基準では合格しません。

七田式のは今回初めて見ましたが、これもやっぱりダメでした。

やっぱり一番よかったのは、多湖輝さん監修の学研のものです。これは、あと10枚か20枚差し込めば文句なくいいものになります。

 

それにしても、この一角をずーーっと見て、また「ハァ〜」とため息が出ました。

「ない!

これだけ色々と出版されているのに、私が「よし!」と言えるものがないのです。

 

心ある親は、子供が3歳になる頃このコーナーを探すでしょう。足し算に入るまでは、問題ありません。でも、足し算に入ると、「パンを求める者に石を与え」るようなことになるんだなあ、そう思ってのため息でした。決して親が食い物にされているとは言いません。でも、もう少し、何とかならないものか。

そう思ったのでした。

  (このあたりのことについては、コラムを改めてまた書きます。)

 

 

 

 

さて、しかし1冊の本を、私は見つけました。

「よっしゃ。これはいい!」という本を。

ズバリ、書名を紹介します。

         

『2才児のさんすう』(伊藤恭著、京都・法政出版)1800円

 

です。本当の力をつけるために、大切な事が書かれています。たくさんの具体的な方法も紹介されています。

是非購入されるといいでしょう。

そもそも、数を教えるとはどういうことなのか、その最も本質的なところを、きちんと明かしてくれています。その原理・原則から、具体的な「遊び」というシステムに到るまで、綿密な構成になっています。

私は、今回始めて知ったのであって、著者の方とは一面識もありません。しかし、『秘法 スーパーらくらくスタディ 直伝編』をお読みいただければ、根本的に同じことを言っているのがお分かりになると思います。

これはいったいどういうことなのでしょう。

たぶん、著者の伊藤さんは、グレン・ドーマン博士の著書なども研究されているのだろうと思います。

このような静謐な地下水のような流れが、脈々とあるのです。

 

 

U. 児童用参考書 分数の割り算 探訪

 

 

さて、次は、小学校の参考書のコーナーです。今回見るのも、6年生の割り算のところです。

まず、教科書ガイドを全社分見ました。

そこでひとつ大きな疑問が生じました。

全社が、同じなのです。コラム08で揚げたのと同じタイプの例題なのです。これは、とてもよくできた問題だけれども、「致命的な欠陥」を持っているようだと指摘しました。

「う〜ん」と考えます。指導要領では、取り扱う問題の種類までは決められていません。10社近く教科書会社があるんだから、分数の割り算の導入の問題は、もっと多様なアプローチがあってもいいのに、と思うわけです。

 

 

 

 

コラム09では、くわしく解説している参考書がなかったということを書きました。しかし、さすが大きな本屋には、ありました。2冊紹介します。

 

 

 


『あそびの王国 さんすうはかせ 6年生』

(相原昭著、草土社、1165+税)

 

 

 

                             

これが、教師用の本としてではなく、6年生の児童向けの本であることがうれしいです。ていねいで、分かりやすい解説。特に前半の説明の分かりやすさは天下一品です。

こういう本がもっとたくさん出るようになって欲しいものです。これは、まさに初めて学習する児童の側に立って、かゆいところにまさに手が届く説明をしてくれています。

(ただ、後半の説明は、よりは、細分せずにを採用した方がわかりやすいでしょう。)

 

さらに、一つの問題だけから結論を出すのではなく、いくつか数をこなして帰納的に納得させようとしてくれているところ。こういうところで、子供は「算数・数学の勉強のしかた」というものを学ぶのです。分数の割り算に要しているページは丸々4ページです。

 

 

 

 

もう1冊は、

『こどもといっしょに たのしく さんすう(小学4〜6年)』

(渡辺恵津子著、一声社、1500円+税)です。

 

 

 

 

 

 

 

これは、対象は大人です。でも、本当に子供によりそって、子供の視点から見ているのが伝わってきます。分数のかけ算と割り算については、巻末の「お母さんの悩みに答えます Q&Aコーナー」に3ページかけてくわしく書いてくれています。

 

 

この本を読んで、私は、自分の小学校4年生のときのことを思い出しました。佐藤先生という女の先生でした。面積や体積の授業の目が覚めるように楽しかったこと。「面積とはなんぞや?」ということを訊くものでした。それに対して、ああだこうだと議論し、途中でそれまでの自分の考えが揺らいでまた考え直し、最後に、「ああ。そうか」とたどり着いた面積の定義。あの授業を思い出しました。これこそ、一斉授業の醍醐味です。プリント学習ではできないものです。

「2÷3」の授業の深まりも、読んでいて、その授業が目に見えるようでした。

もし、おもひでぽろぽろのタエ子がこんな授業を受けていたならば、分数の割り算も、小学校で「納得がいっていたかも」知れません。

 

 

 

 

 

さて、けれども、やはり問題点は解決されません。

 

上記2冊、どちらも、分数の割り算には、全教科書会社が採用しているあのタイプの問題を使っています。

 

そして、特に前者の本は、本当にていねいにページをとって、くわしく解説してくれています。

その解説の分かりやすさは合格ラインです。

 

それなのに。

それなのに、なぜこの問題が割り算になるのか、くわしい説明があっても、それでもやっぱり分数で割るということが実感的に分からないのです。

 

『あそびの王国 さんすうはかせ 6年生』では、なんと1ページかけて分かりやすく説明してくれているのですが、

はかせ「これはわり算することになるね。A2という式になる」

 

というところを読んだとき、わり算になるということは何となく理解できても、2で12あたりのA量になることが、「実感的に」納得できないのです。

 

 

 

 

ちなみに、渡辺さんの本は、別の可能性を見せてくれます。たとえその問題を持ってきたことに何らかの「欠陥」があったとしても、一斉授業で深まれば乗り越えていけるその可能性を見せてくれています。

逆に「どうして割り算になるの?」と一斉授業で深めていく可能性、ということです。

だから、一つ欠陥があるからダメ、ということではないわけです。

 

 

しかし、これは、教師の力量によるところが大きいです。また昨今の学校は、どんどん危機的になっていっています。いつどこで学級崩壊が起こるかはわかりません。そこまでいかなくても、指導力のある教師が、過去にいい授業ができたからといって、今年も同じように授業を深められるとは限らないのです。けれども、児童にとっては、6年生は1回だけです。もし、そのクラスが崩壊している、あるいはそれに近い状態だったとしたら、どうなるでしょう? 

 

こう考えると、一斉授業のいい面だけに頼っていたのではいけないということは、分かるでしょう。

 

そこで、「独習してもちゃんと分かってできるようになる道」というものが用意されていなければなりません。

それがあるならば、何らかの理由で学校に来られなくても、家庭で勉強して「分数の割り算が分かる、できる」ようになることができます。

 

そのためには、独習してもちゃんと分かってできるようになるような、本当に「わかりやすい」教材が必要になるのです。

 

 

 

ところで、ここでは、「なぜ分数の割り算は、割る数の分母と分子を入れ替えて掛ければいいのか」その理由を不問にしているような教材は、算数のよい教材とは考えていません。そんなものは問題外であることをはっきりとさせておきましょう。

 

その意味で文部科学省の指導要領は大変立派です。理由をいい加減にしたまま、やり方だけ覚えればいい、としているようなところはありません。(もちろん小学生という発達段階でどうしようもないものは、理由が分からなくてもしかたありませんが。)

数学教育アカデミーの追究する路線も同じです。

 

ただやり方だけを覚えて計算ができるようになることを、4歳でできた、3歳でできた、2歳でできたなどと自慢する大手教室もあるようですが、そんなのは論外です。

 

 

 

 

さて、ここまで周辺の事情をはっきりとさせた上で、はじめにもどります。

 

教科書会社が現在採用している分数の割り算の説明用問題(→こちら)は、「わかりにくい」のです。

どんなに、わかりやすく説明をしようとも、です。

 

いったい、わかりやすく説明をしてもなお「わかりにくい」とはどういうことなのか?

その原因は何なのか?

では、どうしたらいいのか?

 

この解明が、本当に、どの子供もらくらくと分数を分かる道の創造につながるでしょう。

 

 

※    ※    ※

 

 

それでは、その解決と創造のためにはどうしたらいいのでしょうか?

ほんのわらしべほどの手がかりでも、見つかれば、それを基にして吟味の幅を広げることができるでしょう。

 

 


探訪を続けることもそのための一つの方法です。

その後、私は、一つ手がかりを拾いました。

 

『旺文社 小学 算数事典』

(監修 中村享司、旺文社、2500円)

 

 

この本の分数の割り算の説明を読んだとき、私は大変分かりやすかったのです。スッと入ってくる感じでした。

 

この本では、図は一切使われていません。割り算の計算問題が4問提示されており、そのそれぞれに順次解説がなされています。

 

314ページ。

3.分数でわる計算 

637番 真分数の割り算 つぎの計算をしなさい。

(1)    (2)    (3)     (4) 

 

(1) 同分母の2数の割り算です。割られる数の方が大きいタイプ。

(2) 同分母の2数の割り算です。割る数の方が大きいタイプ。

(3)(4)は異分母の2数の割り算です。どちらも同じなので(4)は練習です。

 

初めて学習する子供に対しては、図を入れるなどして膨らませるともっと分かりやすくなるでしょう。

 

 

 

現行教科書が採用している上記例題(→こちら)のような問題による割り算の導入は、どんなにくわしい解説をつけても、最終的にピンと来ないものが残るのに対して、こちら『旺文社 小学 算数事典』の方は、簡単な解説であるにも関わらず、「なるほど。分かった。」という感じがします。

 

 

 

どうしても「実感的に」わからなかった、教科書会社が現在採用している例題(→こちら)と何が違うのでしょうか?

この違いはいったい何なのでしょうか?

 

 

もう少し、『旺文社 小学 算数事典』を見てみましょう。

問題のすぐ後に、「とき方」とあって、こう書かれています。

 

分数を分数でわる計算のしかたを見つけるために、まず、わり算を

「ある数の中にある数がいくつ分ふくまれているかを知るための計算」

として考えて見ます。

 

 

そして説明が続いていくのですが、ここなのです。この最初のところが、

感情的にスッと入ってくる

のです。だから後の解説も、感情的に「分かる」のです。つまり、納得がいくのです。

 

 

私たちは、「割り算」をはじめて学習したときに、そのイメージ的な意味づけとして、

8個のリンゴを2個ずつお皿にのせていくと、何皿できるか?」

ということを学びました。そして、

8個のリンゴから2個ずつとっていくと、4皿できる。そうか、これが、8÷2なんだな、」

と納得したものです。(これが、「実感的理解」です。)

 

 

 

これは、「包含除」といわれるものです。

 

 

それに対して、現行教科書が採用している上記例題のような問題は「等分除」といわれるものです。

 

 

 

 

 

指導要領解説(これは120+税)でもこう書かれています:

 

指導要領で、6年(3)分数の乗法、除法のところで、

 

(3)イ 乗数や除数が整数や小数の場合の計算の考え方を基にして、乗数や除数が分数である場合の乗法及び除法の意味について理解すること。

 

 

となっています。つまり、分数で割る場合は、小数で割る場合をもとにしなさい、と。

 

 

 

そして、その小数で割る場合については、指導要領解説の5年(3)小数の乗法、除法の解説cのところを抜粋して見ましょう。

     

(.) 割合を求める場合 Bを「基準に対する大きさ」、Pを「割合」、Aを「割合に当たる大きさ」とするとき、B×P=Aという関係がある。これから、Pを求める式は、P=A÷Bとなる。

(.) 基準に対する大きさを求める場合 上と同じように、(中略)B=A÷Pとなる。

 

 

 

そして、

 

(ア.)の例として、

「9リットルの水を1.8リットル入るびんに分けると、びんは何本あればよいか。」

 

をあげています(包含除)。これはスッと感情に入ってきます。分かりやすいです。

 

(イ.)の例として、

 

「2.5メートルで200円の布は、1メートルではいくらになるか」

 

をあげています(等分除)。教科書がそろって採択しているのはこちらの方です。

 

さらに、こう解説を加えてくれています。

(イ)の場合よりも(ア)の場合の方が理解しやすい。つまり、除数が小数の場合には、基準にする大きさを求めるという見方にやや難しさがある。」

 

 

まさにそのとおりなのです。

(イ)の場合よりも(ア)の場合の方が理解しやすい。

 

すなわち、

等分除よりも、包含除の方が理解しやすい。

 

 

 

そして解説はさらに、

「このことについては、公式や言葉の式だけでなく、数直線や図などを用いたり、具体的な場面に当てはめて調べたりする活動を行うことが大切である。」

 

と続いています。

 

 

実は、ここが不明確なのです。

 

最も大切なこの部分が不明確なため、指導者は、「勘違い」をしているようなのです。

その結果、あえて児童が理解しにくい(イ)の方を採択して、「十分説明して分からせたつもり」になっているのが、今の教科書。

 

こういうことなのではないでしょうか?

 

 

 

 

結論は次のとおりです:

すなわち、

 

 

ここ(分数で割る割り算)は、「実感的理解」に結びつけることを目標とするところではない。そうではなく、「代数的処理の抽象化」の翼に乗せる、その体験をさせるべきところである。

しかし、新しい概念の学習の導入においては、「実感的理解」というものは絶対に必要である。

 

すなわち、分数で割る割り算の指導においては、まずその「実感的理解」を体験させておいてから、「代数的処理の抽象化」の翼に乗せてあげるべきである。

 

 

 

ところが、(イ)の方を採択して、分数で割る割り算を説明しようとしている今の教科書の方式では、どんなにくわしい説明をしても、「実感的理解」には結びつかない のだ。

 

 

ということは、指導の過程を考えたとき、この例題→こちらは分数の割り算の導入にもって来るべき問題ではないということになるのです。

 

 

 

 

こうして私は、ひとつの結論に、達したのでした。

(順番は前後しましたが、この結論をくわしくまとめたものが、コラム08です。)

 

 

 

あっという間に3時間半は過ぎ、三省堂を出なければならない時刻になりました。(教育専門書コーナーは別の階にあり、時間も残ってなかったので2冊しか見えませんでした。楽しみが残りました。これは、またそのうちに。)

 

 

春が近くなったとはいえ、まだまだ短い2月下旬の午後の日差しは、早や皇居の方からビルの影を落とし始めていました。

 

9.   徒然 書店探訪草 (1)

19.  徒然 書店探訪草 (3)

20.  徒然 書店探訪草 (4)

 

 

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