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算数・数学

09. 徒然書店探訪草(1)

 

T. 幼児用参考書 足し算 探訪

 

先日、本屋の児童書コーナーの参考書のところをずーーーっと見てみました。

そして、改めて、愕然としました。

 

 

もう10年以上前のことを思い出しました。

わが子に教えるのに、いい本はないかと探し回っていた頃のことを。

 

言葉や数をはじめて教えるところあたりまでは、結構いいのが出ているのです。公文や学研のがいい。ところが、足し算になると「これは使えない」のです。

私の基準に合格するものが、あの頃はありませんでした。

 

 

さて、今はどうなっているだろうか?

 

公文のは、いきなり数式で徹底的に数をこなすようになっています。それではダメなのです。確かに、+1(足す1)から始まって、その問題数の多さは言うことなし。でも、その前にやるべき、大切なことがあるのに、素通りしてしまっている。

フラッシュカードは公文のが絵がきれいで、大きさも手ごろなので、あの頃いっぱい買って使ったのですが、足し算になってから「ダメだ」ということで離れたのでした。

その頃と、まったく変わっていません。

 

それよりよかったのは、学研の多湖輝さん監修のやつです。こちらは、かなりいい線行っています。ただ惜しいかな、バリエーショナルエクササイズの或る段階で、それを素通りしてしまっている。

 

10年前、探し回った挙句「私の基準に合格するものはない」と失望し、またその頃「さんすうおじさん」(コラム05)と出会ったこともあって、私はついに自分でプリントを作ることに踏み切ったのでした。それを思い出しました。

 

本屋さんに並んでいる幼児用のものは、今もあの10年前と同じです。

 

 

 

 

 

 

 

U. 児童用参考書 分数の割り算 探訪

 

 

さて、児童書コーナーで、私の足は、小学生の参考書、問題集のコーナーに向かいます。

楽しみもありました。

年々続々と本が出版されているので、今度はいいものに出会えるかも知れない。こんな期待が少〜しありました。

 

 

しかし。 残念ながらその期待は打ち砕かれました。  …… ない …。

 

 

 

具体的に書きましょう。

 

小学校6年生の分数の割り算のところを中心に見ていきました。

 

 

結論は、惨憺たる結果です。

 

7割の本はボツ。

 

 

基準は、おもひでぽろぽろのタエ子がそれを使ってがんばって勉強して「分かった」と言えるようになるか?

 

つまり、私はタエ子になって、次々と本を手にとって見ていきます。

 

 

7割の本は、「分数の割り算は分母と分子を入れ替えてかけるんだよ」ということを「分かりやすく」解説しているだけだったからです。

(つまり、なぜそうするのかという理由には一切触れていません。

これでは、私(タエ子)がそれをつかってどんなにがんばったとしても、「分かった」といえるようにはなれない

悲しいことです。

 

 

けれども、ここで、この稿のテーマの答が一つ浮かび上がってきます。

「なぜ算数・数学が分かるようになれないことのか?」

 

解答その1 少なくとも、「教える」という立場にある者が、子供がほんとうに分かるようになるものを作ってないから。

 

 

 

 

では、私が本屋で見た残り3割の本はどうだったのか?

これらは、分数の割り算の理由の説明がきちんとされています。

 

けれども、…。

 

これらも、やっぱりボツでした。

 

なぜでしょう?

 

ズバリ言って、分かりにくいからです。

とにかく難しいのです。

あれでは、参考書だけで分かる子供は1割もいないでしょう。

 

 

 

 

 

分からない最大の原因

 

私(タエ子)が難しいなと感じたのは、分数の割り算の最初に出てくる例題です。たとえば:

 

例題1 haの土地を時間で耕せる耕運機で、1時間に何ha耕せるか。

 

この例題で分数の割り算を導入しています。

 

これは、確かによく工夫されたものには違いありません。

 

しかし、どうでしょうか?

裸の王様にならずに、これがほんとうに「分かりやすい」かどうか、考えてみてください。

 

難しい。

 

これがはじめて学習する子供相手の参考書で、分数の割り算の最初に出てくるのです。自分が始めてこれを学習する子供だったとすると、どうですか? これを見て、はじめに何かピタッとくるものはありますか?

 

 

 

ではなぜ私(タエ子)が「むつかしい」と感じたのか、具体的に振り返って見ます。

 

 

むつかしい点その1 「haの土地…」が、まず実感できない。

 

まず、身の回りの具体的なもので自然に「ああ、あれか」と感情に入ってくる例がほしいのです。でも、いきなりhaではそこから実生活とはかけ離れています。

 

もちろん、何でも「すぐに分かる」ということはありませんから、分かるための努力は必要です。先生が長方形の図を描いて「1haよ。」と説明してくれれば、haはピントこなくても、これでなんとなくは分かるでしょう。さらに横に線を4本引いて5つに分けて、下から2つ分に斜線を引いて「これがhaよ。」これもOKでしょう。

 

その次です。「時間で耕せる耕運機」…? ピンと来ないでしょう。

 

まず、その体験がない。こんな贅沢な体験ができるのはほんの一握りの子供だけでしょう。

 

ともかくこれも、何とか時間をかけて納得できたとします。

 

 

 

 

ところが、…。

 

むつかしい点その2「haの土地を時間で耕せる耕運機で、1時間に何ha耕せるか。」 これがになるということの実感的理解ができない。

 

 

 

では、タエ子になった私が、先生に訊いて見ましょう。

 

私(タエ子)と先生の会話:

 

「えっ? どうして? どうして割り算になるの?」

5年生のとき、小数の割り算でやったでしょ?」

「うーん。そうだったかなあ。」

「じゃあ、もう一回説明するわよ。(全体量)を(時間)で割ったら(単位時間あたりの量)が求まるのよ。」

「そうだっけ?

「たとえば、ある耕運機で8haの土地を2時間で耕せたの。1時間では何ha耕したことになるのかな?

「8÷2で4haね」

「それと同じことよ。ha)÷(時間)とできるでしょ。」

 

「う〜ん。でも、分数で割ってるのよ。それでいいの?一体、分数で割るってどういうことなの? 時間でわって、どうして1時間あたりがでるの?」

 

 

 

 

タエ子は、「そうか」と適当に妥協することをしません。

本当に自分が納得したいのです。言葉に式に当てはめるだけでは、感情的な納得はやってこないのです。

 

 

 

親切な先生は、もう少し粘ってくれるでしょう:

 

「じゃ、別の考え方をしてみようか? 1時間に□ha耕せるとしてごらん。時間だと□(ha)×でしょ? これがなのよ。だから、□×。」

 

「うん。そこまでは、納得できる。」

「じゃあ、あと一息じゃない。□にをかけてになるってことは、掛け算の逆でで割ることになるでしょ?

「それは分かるんだけど…。でも、で割るってどういうこと?

 

 

 

 

 

普通の子供なら、雲行きを考えて、このあたりで「分かった顔をしなければならないかな?」と判断するかもしれません。

 

 

私(タエ子)がなぜ「スッキリ」しないのか、そこを分かってもらえなければ、どうしても歯車はかみ合いません。

 

 

実は、先生がこのタイプの問題で進めていこうとする限り、私(タエ子)は「スッキリ」することはできないのです。

 

 

 

 

 

土地の問題で解説しましたが、次のように問題を変えても同じことです。

 

例題2 2の板を のペンキで塗ることができるとき、

 

12塗るには何 のペンキが必要か。

 

あるいは

例題3 2の板を のペンキで塗ることができるとき、

 

1 のペンキでは何m2塗ることができるか。

 

 

 

以上は、このタイプの問題が持つ「致命的欠陥」であるといわざるを得ません。(もちろん、初めて分数の割り算を学習する児童に出題するとき、ということです。)

 

 

 

 

 

 

 

分からなくなる他の原因

 

他にも問題点があります。これは、完全に、「出版する側」の問題です。

 

 

たった、1ページで、上の問題の解説まで終わらせてしまっていること。

 

 

まったくの初心者、しかも義務教育初期の初心者が取り組むべきものとしては、もっともっと、分かりやすくするべきです。そのためには、説明を懇切丁寧にすることが第一歩です。当然それに必要な紙数が確保されなければなりません。

 

上記の例題をほんとうに子供に分からせようとするなら、学習者にとってわかりやすいおろし方を工夫しなければなりません。

 

 

 

 

 

 

           

 

 

先日本屋を見てみて、私は、あまりにもさびしくなりました。

 

 

できうるならば、私が見て、「おおーーッ! これだ! これなら3万円出しても5万円出しても惜しくない!」と飛びついて買うような、そんな教材が流通に乗って本屋に並ぶようにならないものか、と思います。

 

そういうものがあれば、たとえ学校はどんなに荒れて学びの場ではなくなったとしても、あるいは何らかの事情で学校に行けなくなったとしても、「学びのチャンス」が得られるのです。それこそ、すべての子に平等に与えられるチャンスということになるのです。

 

 

それができない現時点では、自分でパソコン作り、自分で印刷して使うのがベストなのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

ただし、その前に、もう少し他の書店を探訪してみましょう。

「これはよく分かる」という本に出会うかも知れませんから。

 

                       コラム10に続く

 

 

 

 

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