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算数・数学

03. 教え方 分数その3(分数の割り算)

         『おもひでぽろぽろ』に学ぶ @

 

アニメ映画『おもひでぽろぽろ』を見たことのある人も多いでしょう。

(原作:岡本螢 刀根夕子、製作プロデューサー:宮崎駿、脚本・監督:高畑勲)

名作です。ごくありふれた日常の中から、あれほどの感動を引き出す監督の手腕には脱帽します。それは、単なる技術ではなく、心のひだの置くまで読み取る深い洞察力があるからこそ、できることです。

 

さて、その映画の中で、主人公タエ子が自分の小学校時代を回想するシーンの中に、分数のテストでひどい点をとってきて、それをオズオズと言い訳しながらお母さんに見せるところがありました。

そこは、分数の割り算のところでした。赤で×ばかり入っているテスト用紙。それを見てお母さんはため息をつきます。

「お姉さんに教えてもらいなさい」とお母さんから言われて、2階にいたお姉さんに教えてもらいに行くと、それを見たお姉さんは「たいへん!たいへん!」と大騒ぎ。お母さんはその姉に、タエ子の勉強を見てやるように言いつけます。こうして、タエ子と姉の、差し向かいでの「お勉強」が始まるのです。

 

今思い出しても、タエ子が、テストを見てびっくりしているお母さんを前にして、おずおずと言い訳しているところが、まるで自分の小さい頃のことを見ているようで、懐かしいようなほのぼのとした気持ちになります。

タエ子にとっては、そんな悠長な事ではなかったでしょう。テストを返してもらって学校から家に帰るまでに、小さな頭の中で、お母さんにどう言おうかと、思いをめぐらせたことでしょう。

 

 

さて、この出来事をタエ子の「分数事件」と呼んでみることにしましょう。

この「分数事件」には、とても大切な視点がいくつも含まれています。それを吟味してみたいと思います。

 

 

 

 

 

まず、お姉さんとのお勉強の様子を見てみましょう。

 

姉  「分母と分子をひっくり返してかければいいだけじゃない。学校でそう教わったでしょ?」

タエ子「う、ん。」

姉  「じゃあー! どうして間違ったの!?」

タエ子「分数を分数で割るって、どういうこと?」

姉  「え?」

そこで、タエ子は紙をとってりんごの絵を書きます。

                          

タエ子「個のりんごを  で割るっていうのは、

個のりんごを4人で分けると1人何個かってことでしょ?

 

姉  「うーん。」

タエ子「だから、1,2,3,4,5,6で、1人個。  

 

姉はしばらく考えます。

でも、さっき自分が解説した答がではないことを思い出して、

 

姉  「ちがう。ちがう。ちがう。ちがう! それは掛け算。」

タエ子「えーーっ?どうして? 掛けるのに、数が減るの?」

 

姉は説明しようとして少し考えます。けれども、すぐに理由は出てきません。

 

姉  「とにかく。りんごにこだわるから分かんないのよ。『掛け算はそのまま、割り算はひっくり返す』って覚えておけばいいのよ!」

 

その場はこれで終わったようです。

夜、テレビを見ながら、となりの部屋で、2人の姉と母親がタエ子が分数の割り算を分かってないことを小声で話しているのが聞こえてきます。それを聞いたタエ子。

タエ子「個のりんごを で割るってどういうことか、全然想像できないんだもの。」

 

 

 

では、大切な視点です。

 

視点1:

タエ子のように「なぜ?」ということ、その納得できる理由にこだわって、納得できなければ先に進めない子供がいることです。

一度つまずくと先へ進めないというのは、とてもしんどくて損をする傾向です。ウサギとカメのように、自分はどんどん置いていかれるカメのような気持ちを味わうことになるでしょう。

 

けれども、この姿勢(物事の意味を納得いくまで考えるという姿勢)こそが、実は数学的な探究心の芽生えなのです。タエ子がこのように「納得いく理由」にこだわったことは、とてもすばらしいことなのです。(相対性理論を発見したアインシュタインもそのような子供でした。)

 

ここは、タエ子が何とかしてうまく乗り越えていけるように、リードしてあげることが必要です。つまり、タエ子をリードしてあげる側の大人が、この出来事から呼びかけられている、と受け止めることです。

「あなたは親として、この算数の点数をどう受け止めますか?どう、支援してあげますか?」と。

 

では、どのようにリードしてあげればいいのでしょうか?

ひとつには、放任・無関心という態度を選ぶという選択があります。「まあ、いいじゃないの。そのうち分かるようになるさ。」けれども、われわれはこれを選ぶことはしません。タエ子を何とかスッキリさせてあげられるように、支援したいのです。

 

今なら、塾にやる、家庭教師をつけるという選択肢も十分あります。ただ、これには落とし穴がありますので、それを知った上で対策を立てるほうがいいでしょう。(コラム『親が陥る8つの落とし穴』をご覧ください。)

 

そこで、タエ子のお家ですぐにやったように、家族が関わって支援するという選択をして見ましょう。

 

では、タエ子のつまずいている、(分数)÷(分数)について、どう支援してあげたらいいのでしょう?

お姉さんがやったように

「意味なんて考えなくていいから、とにかくやり方を覚えなさい」

と、ムリヤリやり方を覚えさせて練習させるか?

それとも、タエ子がとことん納得のいく説明をしてあげるか?

 

 

 

次の視点です。

視点2:

タエ子の「なぜ?」に対して、誰もタエ子が納得いく説明をできなかったという事実です。

これをどのように受け止めればいいのでしょうか?

姉は、そのとき、タエ子から疑問を突きつけられて、立ち往生。答えることができませんでした。

おそらく、学校の先生も授業で説明したはずですが、タエ子を納得させられなかったのです。

なぜでしょう?

なぜ、誰も、タエ子が納得いく説明をできなかったのでしょう?

 

 

 

 

さらに、3つ目の視点です。

視点3:

タエ子が持って帰ってきた算数のテスト。お母さんが目を丸くするような「悪い」得点だった算数のテスト。

 

実は、この1枚のテスト用紙には、タエ子の切なる心の声が秘められています。

 

それは、タエ子自身、自分では意識していないかもしれません。

それを、はっきり意識して声にして、誰かにぶつけることができたら、そして誰かが明確に答を返してくれたなら、きっとタエ子はつかえていた重たいものが取れたようなスッキリ感を味わえるでしょう。

 

もし、そういう瞬間が得られたなら、それが一つの「数学的発見」なのです。

 

タエ子は、このとき、スッキリ感を味わえなかったのですね。そして、「分数事件」は10年経ってからもはっきり思い出される出来事として、タエ子の心に刻印されたのです。

 

上に掲げた視点1と視点2の答が分かれば、われわれは、第2第3のタエ子をスッキリさせてあげることができるでしょうか?

 

いいえ。もうひとつ、大切なものが必要です。それが、視点3です。

 

あの1枚のテスト用紙に秘められている、タエ子の切なる心の声はいったい何なのでしょうか?

 

 

 

 

このあとは、専用コラムをご覧ください。

 

 

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