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| お問い合わせ 029.立方体の切断 これは、新課程で削除されて教科書から姿を消した。 昔は、必ず時間をとって、生徒自身に手を動かして作業させていたところである。 何を調べるのかというと、表題のとおり、立方体を切断して、その切り口を調べるのである。 私自身の体験を話す。 私は、生徒に教えるようになってはじめて、自分自身が「立方体を切ってその切り口を調べる」という体験をした。 それは、ひとつの感動であった。 ジャガイモでまず立方体を作り、包丁でその立方体を1回スパッと切って、切り口を調べるのである。 まっすぐ切り下ろせば長方形や正方形。斜めに切れば三角形。中でも、正三角形や二等辺三角形が出来ることもある。 これらは直感的にもすぐ分かる。 では、台形は? これもすぐ分かる。 では、平行四辺形は? ひし形は? 五角形は? 六角形は? いったい何角形まで出来るの? 切り口が六角形になるような切り方が実際に出来ること、そしてその切り口を実際に見て確認すること。これは一つの感動であった。 だから、生徒にも、これは実際に自分の手で体験させてあげたいと思った。 この授業も、生徒は家で、ある準備をしてくる必要がある。 それは、私がやったのと同じように、ジャガイモや大根やにんじんを立方体の形に切ってくることである。 さて、この方法についてであるが、いろいろ研究した結果、寒天で立方体を作ることと、野菜で作ることの2つに絞り込まれたという経緯がある。そして、最終的に野菜になった。 その理由は、生徒一人一人が、自分の「立方体」を手に持って実際にナイフで切るという作業が出来るからである。 もちろん寒天で作ってもいいのだが(生徒には方法を説明して、野菜でも寒天でもどっちでもいいよと言っておく)、生徒はみんな野菜で作ってきた。 授業では、切り口が、平行四辺形や ひし形や 五角形や 六角形になる切り方を探すのがクライマックスである。授業の始まりには一斉の形態で、「切断」の意味を説明し、模型で簡単なものを見せる。 そして、テーマ設定が、切断面が上記の形になるような切り方を探そう、というわけである。 うまく切断できたら、切り口に絵の具をつけてワークシートに版画する。そして、見取り図に切り口を書き込む。 切り口が、平行四辺形や ひし形になるように切るのは微妙な調整がいるのでムツカシイ。あまり気にしなくてよい。 それより何より、切り口六角形の切断である。 やはり自分の手で実際に切って、切り口に六角形を作れた生徒は、感動を味わっている。 ※ ※ ※ この授業については、私は新課程になるよりも大分前からやめた。 授業効果について言えば、絶対やったほうがいい。生徒のために、この体験はさせてやったほうがいい。 ここでやってなければ大半の生徒は一生やることがないだろう。 小学校や中学校で、実際にこういうことを手を動かしてやるということは、一生の宝なのである。 では、それほどのものを、なぜやめたのか? 私自身が迷った理由が2つある。 1つ。あるとき保護者から苦情が出た。「食べ物を無駄にしている」と。 これに対して、いまだに私は、反論できる答を持たない。実際、この1時間の授業が終わったとき、大きなビニル袋いっぱいにゴミとなって出てしまう野菜の切れ端…。絵の具をつけてあるから、洗って料理するわけにもいかない。 自分ひとりでやる分には、使えなくなった野菜を捨てても良心の呵責は感じないのだが、40人分となると、なんともいえない。 以上が1番目の理由である。 もう一つ、もっと大きな理由がある。 それは、「刃物が危険である」ということ。 昔は、鉛筆を休み時間にナイフやカッターで削っていたものだ。 いまや、学校ではそれは遠い昔の話になってしまった。遠い、平和なよき時代の話になってしまった。 社会情勢の変化には、抗いがたい大きな力があるのである。 そういうわけで、これについては新課程で「立方体の切断」は教科書から消えたが、それでよいと私は思っている。 けれども、出来れば各家庭で、料理の合間にちょっと、親と子が一緒に楽しむといい、貴重な題材であると思う。 次々と新しい家電製品が開発され、社会は便利になっていきどんどん進歩して行っているようだが、この「立方体の切断」が学校では出来なくなってきたという事実は、大きな問題を提起している。 どんどん、社会が、大切なものを失っていっている、ということを。
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